大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成4年(行ケ)128号 判決 1997年7月09日

東京都中央区日本橋蛎殻町1丁目10番1号

原告

日綜産業株式会社

代表者代表取締役

小野辰雄

訴訟代理人弁護士

矢野義宏

鈴木泰文

同 弁理士

天野泉

東京都荒川区東日暮里4丁目9番8号

被告

三伸機材株式会社

代表者代表取締役

岡田勝

訴訟代理人弁護士

中島和雄

同 弁理士

志賀正武

渡辺隆

主文

特許庁が、平成3年審判第9963号事件について、平成4年4月23日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

(1)  原告は、名称を「伸縮自在な歩廊」とする特許第1580357号発明(昭和58年7月23日特許出願、平成2年2月1日出願公告、同年10月11日設定登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。

被告は、平成3年5月13日、原告を被請求人として、本件特許の無効審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成3年審判第9963号事件として審理し、平成4年4月23日、「特許第1580357号発明の明細書の特許請求の範囲第1項および第5項に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年6月6日、原告に送達された。

(2)  原告は、平成4年8月7日、本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を訂正する旨の訂正審判の請求をしたところ、特許庁は、同請求を平成4年審判第15103号事件として審理したうえ、平成9年3月27日、本件訂正を認める旨の審決(以下「訂正審決」という。)をし、その謄本は、同年4月23日、原告に送達された。

2  本件審決が認定した本件発明の特許請求の範囲第1項及び第5項の記載

(1)  被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されて作業者の歩行あるいは諸作業を可とする歩廊において、当該歩廊は主歩廊と当該主歩廊の一端あるいは両端に出入自在に附設された副歩廊とからなり、長手方向に沿って内側に開口部を設けた主歩廊の枠体に対して副歩廊の枠体を長さ調整自在に沿わせて保持し、主歩廊の枠体の上、下又は内側には足場板を水平に設け、又副歩廊の枠体には前記開口部を介して水平方向に延長する足場板を設け、且つ主歩廊および副歩廊の枠体には折り畳み自在な手摺が附設されてなる伸縮自在な歩廊。

(5) 主歩廊と当該主歩廊の一端あるいは両端に長さ調整自在に附設された副歩廊とからなり、長手方向に沿って内側に開口部を設けた主歩廊の枠体に対して副歩廊の枠体を長さ調整自在に沿わせて保持し、主歩廊の枠体の上、下又は内側には足場板を水平に設け、又副歩廊の枠体には前記開口部を介して水平方向に延長する足場板を設けた伸縮自在な歩廊。

3  訂正審決により訂正された後の本件発明の特許請求の範囲第1項及び第5項

(1)  被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されて作業者の歩行あるいは諸作業を可とする歩廊において、当該歩廊は主歩廊と当該主歩廊の一端あるいは両端に出入自在に附設された副歩廊とからなり、主歩廊は上壁と下壁と内側胴部と外側胴部とからなる中空な枠体を備え、当該枠体の内側には長手方向に沿う開口部を設け、副歩廊は主歩廊の枠体内に長さ調整自在に沿わせて保持され且つ前記開口部の上下巾より長い枠体を備え、主歩廊の枠体の内側中間には一端上面を傾斜させた足場板を水平に設け、又副歩廊の枠体内側には前記開口部を介して水平方向に 長する足場板を設け、且つ主歩廊および副歩廊の枠体には長手方向又は足場板上側短手方向に折り畳み自在な手摺が附設されてなる伸縮自在な歩廊。

(5) 主歩廊と当該主歩廊の一端あるいは両端に長さ調整自在に附設された副歩廊とからなり、主歩廊は上壁と下壁と内側胴部と外側胴部とからなる中空な枠体を備え、当該枠体の内側には長手方向に沿う開口部を設け、副歩廊は主歩廊の枠体内に長さ調整自在に沿わせて保持され且つ前記開口部の上下巾より長い枠体を備え、主歩廊の枠体の内側中間には一端上面を傾斜させた足場板を水平に設け、又副歩廊の枠体内側には前記開口部を介して水平方向に延長する足場板を設けた伸縮自在な歩廊。

(注、下線部分が訂正箇所である。)

4  本件審決の理由の要旨

本件審決は、本件発明の要旨を訂正前の特許請求の範囲第1項及び第5項記載のとおりと認定し、同第1項及び第5項記載の発明(以下「本件各発明」という。)は、その各構成要件がすべて米国特許第3889779号明細書(以下、これに記載された発明を「引用発明」という。)に開示されているから、本件特許は、特許法29条1項3号の規定に違反してされたものであり、同法123条1項1号に該当し、無効にすべきものとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

本件審決は、本件発明の要旨を訂正前の特許請求の範囲第1項及び第5項記載のとおりと認定しているが、訂正審決の確定により、特許請求の範囲第1項及び第5項は前示のとおりに訂正されたから、本件審決は、本件発明の要旨の認定を誤ったことに帰し、審決は違法として取り消されなければならない。

第4  被告主張の要点

訂正審決により本件訂正が認められたことは認めるが、本件発明は、本来進歩性が認められないものである。

第5  当裁判所の判断

本件審決がなされた後の訂正審決の確定により、本件発明の特許請求の範囲第1項及び第5項の記載が前示のとおりに訂正されたことは、当事者間に争いがない。

この訂正により、特許請求の範囲の減縮として、本件各発明には新たな構成要件が付加され、本件審決認定の引用発明とその構成を同一とするものといえなくなったことは、明らかである。

この事実によると、本件審決は、結果的に本件発明の要旨の認定を誤ったことになり、引用発明と同一としたその判断も維持できなくなったものといわなければならず、本件審決は、違法として取消しを免れない。

よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例